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整備森林におけるチョウ類調査結果について
2025.2.13
粟井財団では、水資源の保全を目的として富士山麓標高1,100mに位置する森林にて草刈や除伐、間伐作業を行っております。
併せて、これらの作業が森林に生息する動植物の生態にどのような影響を及ぼしているかの調査をこれまで各種専門家に委託をしてまいりました。
2024年度、富士山生物多様性研究室に委託し2024年4月から10月にかけて実施されたチョウ類調査結果についてここに概要を報告いたします。
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【調査方法】
・4月~10月にかけて月2回の調査実施(4月は1回)
・好天の日の9:00~16:00の時間帯に調査コースを1㎞/h程度の速度で歩きながら、コース両側5mの範囲に出現したチョウ類全種の種名、個体数、時刻などを調査表に記録
・現在林業作業をすすめている森林内では全長約800mのコースを設定
・2013年~2017年まで作業を行った森林内では約2,000mのコースを設定
・その他に梨ヶ原草原内など5つのコースを設定
【調査結果】
・現在作業をすすめている森林内には1年を通じて27種のチョウが確認された。この森林を特徴づける種として環境省絶滅危惧ⅠB類ヤマキチョウと山梨県準絶滅危惧オオチャバネセセリが挙げられる。オオチャバネセセリは森林内のミヤコザサ群落で発生したものと考えられる。その他の種ではヤマトスジロシロチョウやヒメウラナミジャノメ、アサギマダラの個体密度が他のコースに比べ高かった。これはそれぞれの主食草である植物が生息しやすい、間伐や草刈を実施した環境が反映されたと言える。つまり、間伐や草刈といった作業によって植生環境の多様性が高まり、その結果としてそれらを利用するチョウ類の生息を促し、生態系の多様性を高めたと言える。
・2013年~2017年まで財団が作業を行った森林内には1年を通じて44種のチョウが確認された。この森林を特徴づける種として環境省絶滅危惧ⅠB類ヒメシロチョウとヤマキチョウが挙げられる。特にヒメシロチョウが高密度で確認されたことは特筆されるもので、春に発生した個体が梨ヶ原草原に戻って産卵することで、春の火入れによる越冬個体群の減少を補完しているのではないかと考えられる。
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チョウ類は幼虫のほとんどが草食性であることから、多くの種類のチョウが生息する環境は、草原植物の多様性も高いと考えられます。このようにチョウ類は草原環境の生物多様性を測る上で重要な指標となっています。
これからも森林整備作業を進めることで高まる富士山麓の生物多様性に期待し、併せて観察会や調査結果についての学習会を開催することで生態系の保全啓発を図ってまいります。